一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構

スポコン随想

2022.01.28

♯7「トップ選手の光と影」

 「ものごとすべて明暗二相を伴う」(松尾浩也/法学者・東京大学名誉教授,2017年89才没)の言葉通り、世の中の様々な事柄には、明るく光り輝く一面がある一方、暗く影の一面を有しているものです。
 スポーツの世界でもまさしくその通りです。スポーツ選手のハツラツとした明るい姿勢・行動や競技・勝負の面白さ、ハラハラドキドキと共に、成功・勝利の折の感激・興奮がある一方、失敗・敗北の時の挫折・後悔、無念の涙を味わったり、陰湿で卑怯なふるまいや暴力・暴言・ハラスメント・各種違法行為の事例に悲嘆することは確かです。
 体操の世界一に君臨し続け「キング」と呼ばれていた内村航平選手(33)=ジョイカルが1月に引退した。「栄光も挫折も経験できた」「体操が自分を作った」と語り、30年に及ぶ競技人生を何ら気負いや飾りを感じさせない自然な笑顔の記者会見であったところに、真のスポーツのチャンピオンの風格が漂っていました。
 他方、テニス世界一のノバク・ジョコビッチ選手(34)=セルビアは、全豪オープンに出場のためオーストラリアに入国しようとしましたが、査証(ビザ)が取り消され、国外退去の処分という前代未聞の事態となりました。新型コロナウイルスワクチン接種とPCR検査結果に関わり虚偽の手続きがなされたことが、社会にも強く反感を買う結果を招き、ライバルのラファエル・ナダル選手からも「大会よりも大事な選手はいない」と、ジョコビッチ選手の定められたルールを守らない態度と身勝手なふるまいに、スポーツ界の社会的信頼を損ねてしまいました。
 「強ければ何をしても許される」というおごりが根底にあったように思います。「おごれる人も久しからず…(中略)…たけき者もついにはほろびぬ」(『平家物語』)古今東西、遂に奢れる者は、その立場・地位を保てないものなのでしょう。 

 

 

 

執筆:武藤芳照

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