一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構

スポコン随想

2022.03.08

♯8「カンニングとドーピング」

 先般の大学入学共通テスト(旧センター試験)で起きた前代未聞のカンニング事件。現役女子大学生(19才)が試験中に、世界史の問題をスマートフォンで撮影して、中継役を経て、現役大学生らに解答を依頼していたというものです。スマートフォンは、上着の袖に隠し持ち、ビデオ通話アプリ「スカイプ」を使って、試験問題を外部送信したと言います。
 結局、家族に付き添われて香川県内の警察に出頭し、偽計業務妨害の疑いで書類送検されました。
 カンニング(お笑いコンビ「カンニング」が居ますが)という言葉は、英語の「cunning」、ずるい、狡猾なという意味から来ています。これは和製英語で、日本語のカンニングに相当する本来の英語は「cheating」です。
 ずるをして試験で良い成果を取ろうとして合格を図るという不正行為は、古今東西多くの事例があります。古くは6世紀の中国の科挙(高級官吏の資格試験)でもカンニングが良く知られています。 また、一般的に、隣や前の仲間や受験生の答案を見る、手の平、腕の裏側、消しゴムなどに数学の公式などを書き込むカンニングペーパー(カンペと略す)を隠し持つなど、枚挙にいとまがありません。
 最近では、眼鏡型カメラで問題を撮影して逮捕された事例もありました。インドでは高校の生徒の家族らが校舎の外壁をよじ登ってカンニングペーパーを差し入れたという集団カンニングの映像が世界中に流れました。  このように、「ずるをして成功を得たい。」という心理は世界共通と言ってもよいでしょう。

 一方、スポーツの世界での「ずる」の最たるものはドーピングです。禁止薬物を不正に使用して競技能力を高め、五輪などの国際競技会でメダルを獲得したいと不正に手を染める事例はなくなりません。  こちらの歴史は古く、古代ローマ時代に二輪馬車競技で馬にアルコール発酵させたはちみつ液を飲ませて興奮薬代わりにしたという逸話が伝えられています。
 そして先般の北京冬季五輪フィギアスケート女子に出場したカミラ・ワリエラ選手(ロシア・オリンピック委員会/ROC)が、昨年12月のロシア選手権で検体に採取したから禁止薬物の「メタジジン」が検出され、五輪大会中にスポーツ仲裁裁判所(CAS)も介入した騒動がありました。この事件の真相や経緯はいまだに不祥ですが、ワリエラ選手の体内からドーピング禁止物質が検出されたことは間違いのない科学的事実ととらえることができるでしょう。
したがって、規則と手続きに従って粛々と処分が公平・公正に実施されるべきと考えています。もちろん15才という年少者であることに十分に配慮した丁寧な教育的配慮は必要ですが、どの五輪選手に対しても平等に権利が守られ、義務が課されなければ、クリーン・スポーツ、公平な対応が損なわれる結果を生んでしまいます。 「ずるをしても成功したい」と願うのは古今東西、人間の性と言ってもいいでしょう。 カンニング、ドーピングはいわば試験とスポーツの抱える宿命のような課題なのです。 そういう認識の下、クリーンでフェアな姿勢を保ち続けることが求められていると思います。

 

 

 

 

 

 

執筆:武藤芳照

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