NHK大河ドラマの『鎌倉殿の13人(脚本 三谷幸喜)』は、久々に鎌倉幕府の時代を描きつつも、三谷流のユーモアも交え、大泉洋をはじめ多彩な俳優陣の熱演もあって、面白く、楽しみなドラマです。
源氏と平家の戦いや様々な物語については、古典文学の傑作『平家物語』や軍記物語『源平盛衰記』、数々の小説、戯曲、演劇、映画、テレビドラマなどで描かれています。
小中学校の運動会でしばしばクラスを紅白に色分けして競い合うことが行われますが、これも源氏が白旗を、平氏が紅旗を用いたことに由来するとされています。NHKの年末恒例の「紅白歌合戦」も、元はといえば、源平の合戦にヒントを得ているのでしょう。
今回の大河ドラマでは、源 義経役を菅田将暉が演じ、さまざまな話題を呼びました。
その義経が活躍して勝利した源平・屋島の戦いの那須与一宗高の物語が、いろいろな形で今も伝えられています。合戦の合間、しばし敵味方が争うのを止めて、平氏の女性が舟に掲げた扇の的を源氏の与一が射たという話です。
それが歴史的事実かどうかは不明ですが、作者が描写に込めた思いは、深いものがあると思います。また、実に流麗な文章で表現されているのも人々の心を魅了するのでしょう。
「南無八幡大菩薩、別してはわが国(故郷下野の国)の神明、日光の権現(二荒神社の祭神)、宇都宮、那須の湯泉大明神、願くは、あの扇のまん中を射させ、たばせたまへ。これを射損ずるならば、弓切り折り、自害して、人に再び面を向かふべからずいま一度本国へ帰さんとおぼしめさば、この矢はづさせたまふな。」と心に念じ…。と与一の必死の思いが表現されています。そして、見事に扇を射て、後の光景が、誠にあざやまに描かれています。
「かぶらは海へ入りたれば、扇は空へぞあがりける。春風に一もみ二もみもまれて、海にさつとぞ散ったりける。皆紅の扇の、夕日に輝くに、白波の上に漂い、浮きぬ沈みぬ揺らいけるを、沖には、平家ふたばたをたたいて感じたる。陸には源氏えらびをたたいてどよめきけり。」『昭和校訂 平家物語流布本』
源平の敵味方、双方ともに与一の高い技量、見事な腕前に対して讃え合い、盛んな拍手を送った様は、今スポーツ界で見られる観客や選手らの見事なプレイや技術、勝負に対しての公平な賞賛の振る舞いと共通しています。
我が国へのスポーツの導入は、明治期になってからであり、スポーツマンシップの考え方や指導・教育・普及も、それ以後のことになります。しかし、我が国の歴史の物語の中に、スポーツマンシップの原型ともみなせる大切な競い合う者の心のあり方を見出せるのは、楽しいことです。
【文献】
1)水野忠文:『改訂体育思想史序説』P137~139,世界書院,東京,1967年
2)スポーツ・コンプライアンス教育振興機構:『まんがでわかる みんなのスポーツ・コンプライアンス入門』P10,学研プラス,東京,2019年
執筆:武藤芳照