「夏の甲子園」(第104回全国高等学校野球選手権大会)が、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で、8月6日(土)~22日(月)の日程で進められています。
全国から49校の代表校が参加し、新型コロナウイルス感染症予防対策を様々に工夫しながら、大会運営がなされています。
高校で野球をしている生徒たちにとって甲子園の土を踏むことには特別の意味があり、出場が決定すれば、学校をあげて、そればかりではなく、卒業生やその地域全体が盛り上がって応援に甲子園に駆けつけるという魅力を有しています。
今年の全国の地方予選大会の出場校は3549校です。その中のわずか49校/3549校=約1.3%が各都道府県代表として甲子園の出場切符を手にしたのです。そして、トーナメント方式で順次試合がなされ勝ち抜いていった最後の2校が決勝に挑み、優勝旗をいただくのは1校のみなのです。
その確率は49分の1、わずか2%です。
言い換えれば、たった1校のみが勝利し、それ以外の全国の3549校のチームは、すべて負けることが前提のスポーツ大会が「夏の甲子園」なのです。
これは、野球に限らず、どのスポーツ競技においても同じです。勝つ者、勝つチームがある一方、負ける者、負けるチームがあり、そして圧倒的に負ける側の数の方が多いのです。
かつて、高知競馬で1998年デビューの牝馬(ひんば)、ハルウララが負ければ負けるほど人気を博し、「負け組の星」と大いに話題を呼びました。
実に113連敗を数え、2006年に生涯勝利を得ることなく引退し、現在は千葉県の御宿町の牧場「マーサファーム」に預けられ、26才(人間の齢80才)となった今、元気に余生を過ごしているとのこと。
最近スマホゲームの「ウマ娘プリティ―ダービー」がきっかけとなって、再びハルウララに注目が集まっているようです。
「世の中で勝ち続ける人はごくわずか」「勝つだけがすべてじゃない」「負けても負けてもひたむきに走り続ける姿に惹かれた」など、人間社会で生きる上で大切なことをハルウララが教えてくれているのでしょう。
あらゆるスポーツ、それはプロスポーツから子どもたちが行う遊びに近いスポーツに至るまで、必ずと言っていいほど負けることを体験します。
勝利よりも敗北を、成功よりも失敗や挫折を感激や歓喜よりも後悔や落胆をリアルに経験させてくれるのがスポーツなのです。負けた時に、挫折した時に、それを糧にどう行動するかが大切なのでしょう。「負けることに価値がある(負けるが価値)」なのです。だからこそ、負けを許さないという歪んだ勝利至上主義は、本来のスポーツの有する意義や価値を損なうのです。
[ 参考 ]
1)東京新聞,2022年5月12日,ハルウララ再脚光
2)西日本新聞,2022年6月12日 教育はいま,運動部②,「スポ根」から「スポコン」へ,編集委員・四宮淳平
執筆:武藤芳照