第104回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園大会)は、仙台育英高校が東北勢として初制覇を成し遂げました。
決勝直後の須江 航(わたる)監督(39)のインタビュージの言葉が素晴らしかったです。
「青春って、すごく密。全国の高校生に拍手を」と述べました。球児たちは、入学時から新型コロナウイルス感染症に翻弄され続け、「普通の高校生活(青春)」を送れなかったのです。その中で苦しみながらも好きな野球に打ち込み優勝を勝ち取った仙台育英高校の生徒たちばかりでなく、全国のすべての高校生への思いやりがその言葉には込められていました。
その言葉に共感するかのように球場には万雷の拍手が湧き起こりました。教育者(高校の情報科の教師)らしい温かみのある深い言葉でした。
名監督の言葉の力を再認識する光景でした。
その一方、甲子園の近くの神戸市の野球強豪校の監督(52)が、新型コロナウイルスに感染した部員らに、「〇〇(生徒の名前)菌」と呼ぶなど、暴言を吐いたり、ハラスメントを行っていたことが最近になって明らかになりました。
感染した生徒は、そのことだけでもからだも心も弱っていたはずで、そこに監督の差別的、侮辱的な言葉を浴びせられ、どれほど心を痛めたことでしょう。
まさしく「監督不行き届き」の最悪の例でしょう。
かつて、五輪水泳チームのドクターをしていた折、決勝に臨む前夜、イチかバチかのレース作戦を使って勝負に賭けたいと担当コーチとヘッドコーチが監督に許可を得たいと話している場面に居合わせました。
その時、監督は「君たちは勝った時のことを考えておけ。私は負けた時のことを考えておく。」と述べ、決勝を迎えました。
うまく勝てば金メダル、作戦が失敗して負ければ8位もあり得る大レースとなりましたが、見事、日本水泳界16年ぶりの金メダリストが生まれたのです。
映画監督の山田洋二さんと日本転倒予防学会の特別講演の折に、いろいろ控室でお話を伺う機会がありました。
「監督の仕事って何ですか?」と尋ねたところ、「(多勢の俳優やスタッフ)みんなの気持ちを一つにすること」という答えでした。
全国のスポーツの現場には、数多くの監督がいます。監督の言葉には力があります。
みんなの気持ちを一つにして勝利、成功のために精進・努力すると共に、その青春の日々を共有する喜びを分かち合えるような関係性の中から、いくつもの名言が自然に生まれるのでしょう。
執筆:武藤芳照